テルミナ思想戦 〜 簡牘のヘルテージ 〜

kohya_hibiki+spirituality2014-12-31


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− かつてわれわれが平和だった時代 −



「テルミナ様、ウィザー卿が平和を実現すると言って軍拡の国家政策を我が国の柱とすべしとの意見書を提出しています」



『して、その根拠は?』



「はい。ウィザー卿は、≪ソクラテスの弁明(青年腐敗)≫を根拠としているようです」



『いやに古い論文だな。ウィザー卿は正気でそのような根拠を提示してきているのか?』



「はい。おそらくは、今回の隠された争点はその”正気”の部分かと」



『なるほどな。軍事政権を目指すという一見、狂気に見える裏側に何らかの冷静な正気があるというのだな』



「ウィザー卿は、それを投げかけることによって楽しんでいるかのようにすら見えます」




『この女神に守られしアテナイの地でそのような暴挙は許されないだろう、いや、ウィザー卿の自由すら都市の守護神によって守られているというべきか。とにかく、正気とは何か?を問うことがいかに純粋な問いであったとしても、そこに至るまでのプロセスが都市国家の破滅を導くものならば、われわれはそれを止める義務がある』




「テルミナ様のおっしゃる通りかと。正義と愛は多くあれど、破滅と破壊はひとつしかございませぬ。まして、それが都市国家全体に及ぶものならば、なおさらでございます」




『早速、元老院たちを招集してくれたまえ。われわれはこの土地の正義を話し合う機会を早急に設けなければならない』



「かしこまりました。素早く結論を導き出し、ウィザー卿に”愛と平和の鉄槌”を食らわしてやりましょう」




『待て、待て、オウェル。お前は既にウィザー卿の罠に嵌っておるぞ。軍事政権へと向かおうとする意見書を提出するだけのウィザー卿にお前が鉄槌を下せば、お前の方が先に軍事的な”力の行使”を行うことになる。前から言っておるが、お前はもう少し、自分の思考に対して緻密な客観的分析を必要とする』




「失礼しました。おっしゃる通り、私はまだ自我が抜けない未熟者でございます。これからもご指導のほどよろしくお願いします」




『気にするな。しかし、お前のような人間が多ければ多いほど、実はウィザー卿が目指すべき思想戦の土壌が出来上がっているということであり、わしは一抹の不安を覚える。つまり、ウィザー卿のほうが状況を的確に分析しとるかもしれんということだ。元老院にも正確に社会構造分析を行うものがいるが、彼らは少し年老いた。その分析が少しでもぶれれば、次の時代がやってくる。その次の時代を意味するものがウィザー卿の意見書ならば、それすらもわれわれは受け入れなくてはならぬ。それがアテナイへの恭順だ』




「従います。私の未熟さゆえに社会が破滅へと向かうというのならば、私はこのアテナイにはいられぬ存在。テルミナ様の仰せの通りに致します」




『うむ。おぬしに罪はない。そして時代にもだ。”そこには変化する意志しかない”。かのアルキメデスの言葉だ。時代が戦争を望むなら、われわれは戦わねばならぬ。しかし、それには最後まで抗わなければならぬ。それがわれわれ自由の女神党の決意だ。意志にも決意にも善悪はない。結果の評価が善悪を生む』




「私の意志は、テルミナ様と生死を共にすることでございます。私は未熟ゆえ、自らの意志の善悪判断ができません。しかしながら、私は自らの意志を信頼しています。それは私がテルミナ様を選んだからです。この決定を私は後悔したことはありません。むしろ日々、その喜びを感じています。アテナイの女神によって深く愛されていると感じています」




『うむ。そこも少し気をつけたほうが良い。ウィザー卿はそのような神への恭順さも狙っておる。その都市の守護神への深すぎる愛情ゆえの執着は捨てるがよい。その執着がウィザー卿の”正気”テーゼのブラックホールに飲み込まれていく。信頼はして良いが執着はするでない。すぐ捨てられる位置に留めておけ。愛すべきはわれわれの関係性であり、女神そのものではない。”平和”はそこにしかない』



『つまり、関係性が崩れた時に平和は崩れる。原子力発電所や独裁党が大きくなる時代は、その関係性が既に崩れた時代なのだ。それを深く洞察すれば、原子力発電所や独裁党が原因ではなく、結果に過ぎないということを理解できるだろう。責めるべきは結果ではなく、原因でなくてはならない。ミネストローネが熱いということをスープのせいにしているというのならばそれは、野蛮人に過ぎない。われわれが文明人ならば、われわれ自身がミネストローネを選択した思考そのものを責めなければならない。






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